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放射線治療について(一般の方へ)

投与線量について

 放射線治療での投与線量は、薬の服用量と同じく英語で「dose」と表現されます。放射線による治療効果は、1回線量、分割回数、合計線量、照射期間、照射間隔、照射体積などの線量分割因子に依存します。一般的に放射線治療は50Gy~70Gyを25回~35回の分割照射が5~7週かけて行われます。しかし、近年では腫瘍と正常組織の線量分割に対する反応の差を利用して、1日に2回あるいは3回の照射を行う多分割照射法が試みられています。多分割照射法には、1回1~1.3Gyまでの線量を1日2回照射し、1回線量を下げることによって晩期障害の発生頻度を抑え合計線量を安全に増加させることを目的とする過分割照射法(hyperfractionation)と、1回1.3~2Gyまでの線量を1日2回あるいは3回照射し、合計線量を変化させずに照射期間を短縮し、照射中の腫瘍再増殖の影響を抑え局所制御率の向上を目的とする加速過分割照射法(accelerated hyperfractionation)に大きく分けられます。しかしながら、実際は両者が混在する様々な線量分割の過分割照射が行われており、この2つの照射法を明確に区別するのは困難です。

喉頭がん

 頭頸部がんは全悪性腫瘍の約2%であり、発生部は口腔、喉頭、副鼻腔、唾液腺の順です。喉頭がんは、頭頸部がんの中では罹患率が高いがんですが、死亡率に占める割合は低く治療成績は高い。喉頭がんの大半は声門がんですが、声門がんは早期より嗄声(させい)などの症状が出やすく早期発見が可能であること、解剖学的にリンパ流が疎でありリンパ節転移が少ないことがその理由と考えられています。喉頭は発声など重要機能に関係していることから、喉頭全摘術は発声機能が失われ、他の縮小手術においても発声機能に障害が出る。また、手術により形態が変貌する問題も大きい。頭頸部がんは90%以上が扁平上皮癌であり、喉頭がんも同様です。機能・形態の温存が図れることや放射線感受性が高い扁平上皮癌が多くを占めることから、放射線治療の果たす役割は非常に大きなものです。
 喉頭がんは男女比が10:1と圧倒的に男性の中高年(60歳代)に多く、喫煙、音声酷使、過度の飲酒が大きな要因と言われている。喉頭は喉頭蓋先端から輪状軟骨下縁までのレベルで3つの亜部位、声門上部、声門、声門下部に分けられる。喉頭がんは、声門がんが60~80%を占める。声門は両側声帯、前連合、後連合に分けられ、がんの大部分は声帯に生じ、次いで前連合に発生し後連合はまれです。声門上部がんは10~20%で、この亜部位は女性にも多く見られる。声門下部がん少なく数%未満です。
喉頭のリンパ流は声門上部、声門、声門下とそれぞれ分かれており、声門でも左右独立している。声門のリンパ流は乏しく、特に声帯にはリンパ網はないとされています。したがって声門がんのリンパ行性転移は腫瘍が声門上、声門下へ進展した場合に生じ、早期がんでは稀です。
「喉頭がんの放射線治療」。
 喉頭がんは、本邦や米国では、早期では放射線治療が行われ進行期では手術が行われることが多い。イギリス、カナダなどではⅢ期症例でも放射線治療を第1選択としています。T3でも症例を選択すれば50%程度の局所制御率が得られ、機能温存を図るべきととする考えのようです。国内でも、まず化学放射線療法を施行し40Gy施行後に手術か続行かの検討をしている施設もあります。。
 早期声門がんでの標準的放射線治療は、Ⅰ期で1回2Gyにて週5日照射で合計66Gy。2期では同様に70Gy程度施行していることが多い。

肺がん

 肺がんは小細胞がんと非小細胞がんに大別され治療されます。小細胞がんは肺がん全体の15%~20%ですが、転移しやすく5年生存率は他のがんに比べ低いのが現状です。非小細胞がんの治療方針は通常UICCあるいは肺がん取扱規約で規定されたTNM分類に基づき決定される。根治的治療の第1選択は手術療法です。しかし診断時には既に進行している症例が多く、切除対象となるのは20%~30%程度です。よって、70%~80%は放射線治療の対象で化学療法を併用した治療が標準的治療法です。一方、小細胞がんは、生物学的特性から通常の病気分類よりも、限局型(limited disease:LD)および進展型(extensive disease:ED)の分類が広く用いられています。LDとは病巣が片側胸郭内に限局するもので、同側肺門、両側縦隔~鎖骨上窩リンパ節までの転移例を含むものとされ、それ以上の進展例はEDとされています。
 小細胞がんは、抗がん剤に対する感受性が極めて高いことから、全身化学療法が治療の主体となります。さらにLD症例では全身化学療法と胸部照射の同時併用療法が予後を大きく改善することが明らかとなり、現在では標準的治療法となっています。なお、初期治療で完全奏功の効果が得られた症例には予防的全脳照射が推奨されている。

乳がん

 乳がんは、女性のがんで罹患数が胃がんを追い抜き第1位になっています。年々右肩上がりの傾向が続き、直近のデータでは、成人日本人女性の12人に1人が乳がんになり、罹患数は年間4万人を越え、死亡数は1万人を超えていると推定されています。今後も少子化、ライフスタイルの欧米化に伴いこの傾向は続くと言われています。
 乳がんは、1970年代に現在のような乳房温存療法が行われるようになった。それ以前は、乳がん腫瘤だけでなく、乳房、胸筋、腋窩組織を一塊にして摘出されていた。患者の乳房を残したいという強い希望が背景にもあり、また大規模なランダム化比較試験によって乳房切除術と腫瘤のみを摘出し乳房を温存する手術の予後に差がないことが明らかにされ、早期のがんでは乳房温存療法が標準治療となっています。乳房温存療法は術後放射線治療が併用されていて、これにより乳房内再発を1/3に減少することができます。乳房内再発は乳房切除で救済されるため、照射、非照射で乳房内再発頻度に差があるにもかかわらず両群の生存率はほぼ同じです。このように補助療法としての照射の主な効果は乳房切除の回避であり、生存への寄与は限定的でしかない。しかし、患者にとってはQOLが維持され生活できることを考えれば、術後放射線治療の恩恵は大きい。
 放射線治療における照射は1回2Gy,合計50Gyが標準的な治療であるが、腫瘤摘出で断端陽性の場合は追加照射が施される。

前立腺がん

 前立腺癌に対する放射線治療は大きく分けて二つに分類されます。ひとつは体の外から放射線を照射する外部照射、もうひとつは体の中から照射する内部(組織内)照射です。今回は前立腺癌に対する内部照射、125I(ヨウ素)シード線源による前立腺癌密封小線源永久挿入療法について紹介します。この治療は日本では2003年から行われるようになり、鳥取大学病院では2009年から行っています。使用される線源は125Iで、長さ4.5mm、直径0.8mmのチタンカプセルの中に密封されています。線源の形が小さな種のような形をしている事からシード(種)と言われています。
 実際の治療では、シード線源をニードルという針を使用して会陰部(陰嚢と肛門の間)から挿入します。前立腺の大きさにもよりますがおよそ50~100個挿入します。少量の出血はありますが麻酔をかけて治療しますので痛みはありません。線源は永久に前立腺内に挿入したままですが、一年後には線源からの放射線量はほぼゼロになります。
 この治療の最大のメリットは前立腺内に高線量を集中して照射でき、周りの臓器への線量を抑える事が出来るという点です。そのため治療後の尿失禁や勃起障害の発生率も低いと言われています。治療期間が短いのも特徴で、海外では日帰りで行っている施設もありますが、日本では法令上治療後1日以上の入院が必要になります。鳥取大学病院では2泊3日で治療を行っています。デメリットは治療適応が限られていること、小線源治療後に癌が再発した場合前立腺全摘手術を受けられなくなることです。副作用も外部照射に比べて発生率は低いですが無いわけではありません。治療後の生活については体の外に出る放射線量は自然放射線よりも少ないと言われており問題はありませんが、一定期間は周りへの配慮が必要で、特に小さな子供や妊婦との近距離での長時間の接触は控える必要があります。

(鳥取大学医学部附属病院放射線部 小林 仁)

子宮頸がん

 子宮頸癌の放射線治療」についてお話します。 子宮頸癌は、子宮の下1/ 3 の子宮頚部という部分に発生する癌のことで、その殆どがヒトパピローマウイルスの感染によって発症するといわれ近年若年者を中心に増加傾向にあります。 欧米では、早期子宮頸癌に対する(根治的)治療方法の選択肢として、手術と放射線治療が同等として扱われており、最近わが国でも早期の子宮頸癌において、手術と放射線治療(病期により化学療法併用)が同等の治療の選択肢として肩を並べるようになりました。 「治療方法」 体の外からリニアックという装置を用いて放射線をあてる体外照射と、体の中からより病気の箇所に限局して放射線をあてる腔内照射があります。子宮頸癌の放射線治療は体外照射と腔内照射を組み合わせて治療を行うことが標準治療といわれています。
「腔内照射の方法」
子宮頸癌における腔内照射は子宮と膣の中に器具を挿入し、放射線線源を一定時間留置して照射する治療法です。子宮や膣に器具等を挿入する際に痛みを感じることがありますが鎮痛処置を施しますので、挿入後は圧迫感を感じる程度です。一連の治療に1時間30 分~2時間程度です。 腔内照射は体の中に直接放射線が出る物質を一定時間送り込み照射することで外照射の何倍も病変部に放射線を集中して照射することが可能で、子宮頸癌の根治的放射線治療には欠かせない照射法です。
 早期子宮頸癌に対する手術と比較した場合の放射線治療の特徴
 長所
①おなかを切らずに子宮を残せます。
②通院での治療も可能です。
③全身麻酔を含めた手術による全身への負担がなく、高齢者や手術リスクが高い患者さんでも治療可能です。
 短所
①治療期間が7週間程度かかります。
②放射線による副作用があります。
1.治療中:下痢や膀胱炎など
2.治療後:直腸や膀胱の粘膜障害による血便や血尿(通常は処置不要)
③閉経前の患者さんでは更年期障害が生じる可能性があります。

(鳥取市立病院中央放射線部 坂本博昭)